向日葵
クロはまるで壊れモノを扱うように、愛しそうにあたしを抱いてくれる。


意識の真ん中にクロが居て、ずっとクロのことだけ考えている今この時は、確かに幸せだと思えた。


指先を絡め合い、吐息を交わらせる彼との行為を、気持ち悪いものだとは思うことはなかった。


理性のタガなんて簡単に外れてしまい、言葉もないままに余白を埋めるようににキスを交わす。



「反則だな、その顔は。」


上から降ってくる瞳があたしを捕え、余裕ぶって持ち上げられた口元の彼によって貫かれて。


もちろんあたしは言葉を返すほどの力はなく、代わりに漏れるのは鼻に掛かった声ばかり。


そうやって脳の中にある記憶も何もかも、クロによって溶かされていくんだ。


元々夢や希望なんてものはなかったし、その上復讐心さえもなくなってしまい、空っぽのあたしの中にクロだけが存在していて。


例えあたし達が醜く汚れていようとも、二人でならば大丈夫だとさえ思えてくる。








「お前はさぁ。
こんなにも俺が理性と闘いながら懸命に努力してたってのに、簡単に誘ってくれちゃって。」


「簡単に誘いに乗った人に言われたくないけどね。」


「…そういうこと言うかな。」


煙草を咥えた彼はそう、肩をすくめてしまったのだが、あたしはと言えば、動くのはどうやら口だけらしい。


ベッドにうつ伏せ、少しだけ悔しさが溢れてしまうのだが。



「てか、ホントに寝ようよ。」


「突かれたから?」


「…疲れたから。」


小さく睨むあたしに彼は、白灰色の煙を混じらせながら、ケラケラと笑う。


何だか悩んでいることすら馬鹿馬鹿しくなって、ため息を零して目を閉じたあたしにクロは、ひとつキスを落としてくれた。


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