向日葵
街の色が宵闇に移り変わろうとする頃には、明け方の雨が嘘のように、空には綺麗なグラデーションが広がっていた。


ずっと巡回通りに立っていた頃には、こんな風に街の景色や空ばかり眺めていたはずなのに、なのに今は、そんなことも少しだけ忘れていたのかもしれない。


二人で夏服を買い、散々遊びまわり、少し気だるい体で見上げたそれに、何故だか切なくなった。



「どした?」


「何でもないよ。」


裏通りに面したスーパーで晩ご飯の材料を買い、少し離れた駐車場までの道を並んで歩いてみれば、“楽しみだな、ハンバーグ”と彼は、そんな台詞。


夕刻だと言うのに人通りは少なく、騒喧を感じないこの場所は、少しだけ居心地がよく思ってしまう。



「…夏希、ちゃん…?」


不意に背中越しに名前を呼ばれ、顔を向けた刹那、ただ嘘であればと思った。


目を見開いてみれば、口元を上げた顔の彼はこちらへと足を進めてきて、無意識のうちにあたしは、体を強張らせてしまう。



「久しぶりだよね。
隣に居るのは彼氏?
もしかして、この辺に住んでる?」


距離が縮まるごとに質問を投げられるのだが、思わず身じろぐように足を引けばあたしは、

震えた体に力が入らなくなり、手の中にあった挽き肉と玉ねぎだけの入ったスーパーの袋が抜け落ちて。


ゴトッと鈍い音がした時、眉を寄せたようなクロの顔が視界の端に映った。



「そんな警戒しなくても良いじゃないか。
きっとここで再会したのも何かの縁なんだし、また昔みたいに仲良くやろうよ。」


“ねぇ?”と、目を細めた彼にあたしは、唇を噛み締めた。


もう何もかもを過去にして、ただ普通に暮らしたいと望んだだけなのに、なのにあたしには、そんなことすらも許されないと言うのだろうか。



「じゅーはち、だっけ?
アレから、どんな風に成長したの?」


「…梶原っ…!」


その名前を紡ぐことに、どれほどの勇気を要しただろう。


まるでいたいけな小動物でも見るような瞳は、あたしと捕えて離さないまま。



「…夏希?」


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