向日葵

刹那、上から降ってきたのは不審そうなクロの問い掛けで、弾かれたようにあたしは、顔を上げた。


だけども目の前に立つ人があたしを無理やりに犯した男だなんてこと、とてもじゃないけど言えるはずもなくて。



「ねぇ、夏希ちゃん。
彼氏はアノこと、知ってるの？」


「あ？」


何も言えないほどに震えるあたしに気付いたのだろうクロは、梶原の言葉に眉を寄せた。


頭の中にはあの日の記憶が未だこびり付いたように残されたままで、制止するようにクロの腕を掴んだのだけれど。



「ハジメマシテ。
夏希ちゃんのお母さんとは、仲良くさせてもらってるよ。」


「…アンタ、もしかして…」


「だからこれからは、キミも息子同然じゃないか。」


その瞬間、クロはあたしの手を振り払い、驚いた時には、梶原は鈍い音と共に地面へと倒れ込んでいて。


ただ、何が起こったのかわからなかった。



「…やめて、クロ…」


体を起こそうとした男に、だけども彼はその胸ぐらを掴み、殴り掛かろうとしていて。


怖くなって生理的な涙が溢れるのだが、クロはその腕を止めようとはしないまま、くぐもった声を上げた梶原に、拳を振り下ろした。



「…やめっ、やめてくれっ…！」


だけども再び響いた鈍い音に、気付けば彼のそれは、男の鼻血に赤く染まっていて、それでもクロは、容赦もなく梶原を殴り続ける。


止めに入ればまた昔みたいに、あたし自身が殴られそうで、足がすくんで動けないまま。


耳を塞いでうずくまっているはずなのに、何の意味もなくて。


折角過去のものにしようとしていた記憶が、全て掘り起こされたように頭の中を占める。



「死ねよ。」