向日葵
一体どれくらい経ったのだろう、少し荒くなった呼吸を落ち着けるようにあたしへと投げられた瞳は、ひどく冷たいものだった。


すでに梶原の意識は朦朧としていて、“警察”と、うわ言のように繰り返すだけ。



「苦しめば良いんだよ、こんなヤツ。」


落とされた言葉は力がなく、クロの行き場を失くした怒りや悲しさだけが、風に吹かれた。



「…だって、クロが…」


「じゃあ、どうすりゃ良かったんだよ!」


殴ったりしたって何も解決しないし、何よりこんなことをすれば、クロはこいつらと同じになるだけなのに。


クロの荒げた声が静かな裏通りに響いて消え、あたしは唇を噛み締めた。



『喋らないし獣みたいな目してるし、今とはまるで別人。』


『ムカついたら当たり散らすし物壊すし、ホント手に負えなくて。』


あたしの所為でそんな頃に戻って欲しくなんてなかったし、こんなクロなんか見たくなかったのに。


それでもあたしの心のどこかでは、梶原に対する復讐心が残されたままで、本当に彼のことを止めようと思えば出来たはずなのに。


なのに、あたしは動くことさえも出来なかったんだ。


感情の行き場がなくて、本当に最低なのはきっと、あたし自身なのだろう。



「おい、誰か!」


刹那、通行人だろうおじさんの声が上がり、舌打ちを混じらせたクロは、“行くぞ!”と言ってあたしの手を引いた。


真っ赤に染まった血の色が、あたしの右手をも浸食して、それでもそれを振り払えなかったのは、きっと目に見えて汚れてしまいたかったからだろう。


過去とか罪とか罰とか、二人、そんなものにまみれたままで、抜け出そうと必死なだけなのに。


なのにどうしてこうも、上手くいかないのだろうか。


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