向日葵
辿り着いたのは小さな公園で、その頃には、辺りは飲み込まれてしまいそうなほどの真っ暗闇が広がっていた。


いつまで経っても呼吸は落ち着かなくて、息を切らせるあたしに彼は、何も言わずにベンチへと腰を降ろしたまま、顔を上げることはない。



「…クロ…」


そう、名前を呼べば、頼りない瞳だけが持ち上げられ、そして引き寄せられて。


瞬間にバランスを崩してしまいあたしは、その腕の中にすっぽりと収められる格好になった。


二人分の心臓の音が聞こえ、彼の首の後ろへと回したあたしの手は、未だ赤く染まったまま。



「わかってんだよ、こんなことしたって意味ねぇの。」


「…もう、良いから…」


「けど、どうしてもアイツだけは許せなかった。
向き合おうとか言ったの俺だし、別に何とも思ってないつもりだったのに…」


泣きそうなほどの弱々しい声のまま、彼はすがるようにあたしの胸へと顔をうずめてしまって。


“なのに”と、そう唇を噛み締めたまま、言葉を飲み込んだ。



「…俺、自分のこと怖ぇよ…」


吐き出された吐息は震えていて、ただ胸が締め付けられた。


結局は過去なんて変えられないし、弱い者同士のあたし達じゃ、無理だったのかな、って。


苦しめたり、苦しんだり、もしかしたらあたし達は、そんなことばかり繰り返さなきゃいけないのかな、って。


刹那、クロはあたしの首筋へと唇を落とし、そしてシャツの中に触手を侵入させた。



「…ちょっ、やめっ…」


そう、抵抗の言葉を並べてみても、クロの瞳はこちらを捕えることはなく、瞬間に恐怖が走りあたしは、固く目を瞑った。


梶原の顔がフラッシュバックして、気持ち悪くて堪らなくなって、身動きも取れなくなるくらいに体が震えて。



「何でだよ!
何でお前の中で、俺とアイツが一緒なんだよ!」


「―――ッ!」


もう、本当にダメだったのだろう。


たとえそれがクロじゃなかったとしても、怖くて堪らないんだ。


こんな行為を繰り返してみても、傷はちっとも塞がることはないし、あの日のことばかりに囚われるのだから。



「…泣くなよ…」


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