向日葵
泣いていたのがあたしなのか、それともクロ自身だったのかは、よくわからなかったけど。


そんな言葉が真っ暗闇に溶けた時、彼はゆっくりと顔を上げ、あたしの瞳を捕らえた。



「…最後にさ、お前のハンバーグ食いたかった…」


“ごめんな”と、そうあたしの涙を拭う指先に、また涙が溢れて。



「俺じゃお前を傷つける。」


「…そん、な…」


「一回離れよう、夏希。」


抱くことも、抱かれることも出来ないのなら、もう離れる以外にないのだと、そうクロは言いたいのだろう。


突然に、しかもこんな風な終わりを望んでいたわけじゃないのに、それでもあたし達は、こうする道しか残されてないと言うのだろうか。



「嫌だよ!
ひとりにしないでよ!」


「…わかれよ、頼むから…」


「わかりたくない!」


刹那、あたしの口を塞ぐように一度触れ、そして離れた唇は再びあたしを捕え、涙の味の中に悲しみが溢れた。



「いつか、俺がもっと強くなれたら、ちゃんと迎えに行くから。」


「…そんなの、勝手ばっかじゃん…」


引き留めようとしてもみても、クロの瞳の色が変わることはなくて。



「あたしの傍に居てくれるんじゃないの?
一緒に乗り越えれば良いじゃん!!」


「ごめん。」


「…何、それ…」


そう問うたのに、クロの答えを聞くことは出来なかった。


きっと、誰が悪いわけでもなくて、ただ、あたし達自身がダメだっただけ、お互いの傷を癒してあげられるほど、自分自身に心の余裕がなかっただけのこと。


あたし達は、自分の中に燻る弱さに勝つことが出来なかったんだ。


本当に好きだったから、きっと二人でなら乗り越えていけると思ってたのに。


なのに本当に好きだったからこそ、これ以上相手を苦しめることが出来なかっただけなんだ。



「…情けねぇよ、俺…」


< 216 / 259 >

この作品をシェア

pagetop