向日葵
「遅い!」


トボトボと歩いていると、遠巻きにそう叫ばれ、ホントに居たのかとあたしは、重い体を引きずるようにクロの前まで足を進めた。


すっかり陽は沈み切り、残業したのだろうくたびれたサラリーマンの群れに逆行すれば、負のオーラに感染してしまいそうだと、失礼ながらそう思わずにはいられない。



「知らないよ。
あたし別に、時間通りに来るとか言ってないし。」


「屁理屈。」


「うるさい。」


結局あたしは、仕方がないんだ、背に腹は代えられないんだと言い聞かせ、この場所に来てしまったわけだけど。


眉を寄せたあたしに向けて、“まぁ良いけどね”と口角が上げられ、そんな顔がまたムカつく。



「どこ行く?」


「この前のとこで良い。」


「他のもん食おうよ。」


「やだよ。
アンタの車なんか乗りたくないし。」


そうですか、とでも言いたげに諦めたように肩をすくめられ、あたしはそんな顔を無視して勝手に足を進めた。


その後ろをクロは、何も言わずに着いてくるだけで。


そのまま50メートルほど歩けば、先日訪れたばかりの居酒屋の明かりが見え、二人、その扉を開けた。


ガラガラと扉を引いただけで店内にはむせ返りそうなほどの熱気が充満していて、おまけに“いらっしゃいませー!”なんて言った店員もまた、うるさいばかり。


この前と同じ窓際の奥から二番目の席へと腰を降ろせば、やっぱりこの前と同じように、クロと向かい合わせの格好になった。


あたしが頼んだのはレモンサワーで、今度も“乾杯しよう”などと言われたのだが、とりあえず的に無視をしたのは言うまでもないだろうけど。



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