向日葵

記憶の中

カーテンを閉めていても抜けてくる陽射しは、もうすっかり夏のものになっていた。


さすがに扇風機だけで過ごすには少しばかり厳しくて、そんなことに無意識のうちにため息が混じる。


開いた携帯のディスプレイは、昨日“7月”の文字に変わったばかりだっけ。


どうりで蒸し暑いとは思ったのだが、だからと言ってあたしは、ベッドから起き上がる気力はないまま。


あれから、もう一ヶ月になろうとしているのか。





新しい部屋を見つけたのは、あの日から3日後のことだった。


それからさらに3日後には契約が成立し、クロの部屋から自分の荷物を運び出した。


元々何もなかったあたしなので、引っ越し作業なんてすぐに終わってしまったわけだけど。


智也にあの部屋の鍵を託し、最後までクロと会うことはないまま終わってしまった。


だけど、それで良いと思った。


7月になった今、もうあの部屋には、誰も居ないのだと言う。



「…お腹空いたぁ…」


呟いた言葉は当然のように誰にも受け取られることなく狭い部屋に消えてしまい、だからと言って作るほどでもなくて、ため息を混じらせること、幾度目か。


さすがにカップ麺は飽きてしまったけど、冷蔵庫には何もないし。


確か、あたしがあの部屋でひとりで過ごした最後の日、クロのためにハンバーグを作って置いておいたんだっけ。


メールや電話があたし達にとって無意味なものだとわかっていたからこそ、それがあたしに出来る精一杯だったんだ。


何個も何個も作ったはずなのに、涙の味でしょっぱくて、成功したのか失敗したのかもよくわかんなかったけど。


ただ、クロが喜んでくれればなって、そんなことだけ思った。



「…ヤバいな、あたし…」


天井の小さなシミを見つめながら煙草を咥え、その煙を吐き出してみれば、また思い出していた自分が少しばかり可笑しくて。


やっぱりテレビくらい必要かなと、ベッドとテーブルだけの部屋に、思わず苦笑いを浮かべてしまった。


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