向日葵
「それは、得意の家出宣言?」


「じゃなくてさ。
香世ちゃんも地元に戻った方が良いって言ってたし、それ考えるのも悪くないのかな、って。」


もしかしたら、同じ街に居るからこそ、クロのことばかり考えるのかもしれないし。


そう言ったあたしに智也は、“そうかもな”と、そんな言葉を返すのみ。


智也はクロのことを過去にしろだなんて強制することはなくて、本当に突き放されているのか甘やかされているのかがわからなくなった。


全部が少しずつ落ち着いてきて、何となくこなせるようになった分、自らの中に燻る孤独ばかりが目に付くようになって。


あたしはいつから、こんなに寂しがりになったのだろう。



「…夏希?」


刹那、弾かれたように顔を上げてみれば、あたしを覗き込む智也の顔はぼやけていて、一瞬何が起こったのかわからなかった。


何かが頬を伝い、それに触れてみれば、泣いている自分に気が付いて。



「…ごめん、何かダメだよね、あたし…」


そう、空笑いを向けてみても、彼は何も言わないままに視線だけを落としあたしは、虚しさばかりが募る一方だった。


忘れようとしてるけど、でも実際は忘れたくなんてないし、本当は会いたくて会いたくて堪らないのに。


恋心も失恋も初めてで、自分の感情をコントロールすることも出来なくて。



「つか俺、帰るわ。」


そう言った智也はあたしの指の隙間から短くなった煙草を取り上げ、それを咥えて立ち上がった。


そのまま引き留めることも出来なくて、パタンと閉まった扉の音が響いて消えた時、何故だかまた、涙が溢れた。


本当は、支えてくれてる智也の前で、クロの泣き事なんて言って良いはずもないのに。


なのにこんな自分が心底嫌になって、もう、消えてなくなりたいと思う。


< 236 / 259 >

この作品をシェア

pagetop