向日葵
午前中のファミレスの窓際の席で、オレンジジュースのストローを掻き混ぜていると、サングラスを外した男が向かいへと腰を降ろした。


降ろして、そして“悪いね”なんて心にもない言葉をあたしに向ける。



「別に。」


「そんな邪険にしなくても、何もしたりしないよ。」


「当たり前じゃん。」


先ほどの電話は知らない番号からで、告げられたのはこの人の名前と、そして場所と時間だけだった。


ついでに“絶対に来てね”と、そんな言葉だけを残し、あたしの意見なんて聞くこともなく、通話は一方的に遮断されたのだ。


で、今に至るわけだけど。



「今更相葉サンが、あたしに何の用?」


つくづく番号を登録しておくのだったと思ってしまうのだが、後悔しても後の祭り。


小さく睨んでそう問うたあたしに、彼は“せっかちだね”と肩をすくめた。



「悪いけど、あたしは忙しいの。」


「そうなの?
でも、ここに来てる。」


「アンタが呼び出したんでしょ?
てゆーか、ホントに午後から用事あるんだから、要件なら手短にしてよ!」


「…キミは少し、敬語を覚えるべきだね。」


一切の会話が成り立たなくて、怒りを押し殺すようにあたしは、煙草を咥えた。


こんな見るからに怪しい人と席を共にして居たくなんてないし、何よりあたしには話すことなんて何もないのだから。



「じゃあ、単刀直入に言うけど。
夏希チャン、仕事する気ある?」


「してるって。」


「違うよ、俺の店で。」


「……は?」


この人は、本当に単刀直入すぎて、意味がわからない。


眉を寄せたあたしをクスリと笑い、相葉サンは煙草を咥えた。


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