向日葵
諦め半分でそう言ったあたしに彼は、不敵に口元だけを上げ、“良かった”と、そう漏らした。


あたしを雇いたいだなんてどこまで本気かもわからないし、この人のことだから、何か企んでいるとも限らないわけで。



「じゃあ、行こう。」


「…今?」


「もちろん。」


“俺はキミより忙しい人間だから”と、そんな言葉と共に立ち上がった相葉サンは、あたしが頼んだドリンクバーだけの伝票を手に、レジへと向かう。


奢ってもらうなんてシャクだが、彼はさっさと数百円をカードで支払ってしまうし、お礼を言うのもまた、何かムカつくし。


そのまま店の外へと出てみれば、駐車場に止まっていたのは、高級な外車。


嫌味だとしか思えなかったのだが、“乗りなよ”と彼は、そんな台詞。



「別に、キミ程度じゃ何とも思わないよ。」


躊躇していたあたしに投げられたのは、イチイチ腹が立つ言葉で、必死で怒りを押し殺し、助手席へと乗り込んだ。


通風口からはまだ生温かい風が吹き出して、それがこもっていた熱気と混ざり合い、軽く吐き気を覚えてしまう。


独特の香水の香りと煙草の煙が混じり合い、もしかしたらそれが、一番この人が苦手だと思う理由なのかもしれない。



「本当の理由くらい教えてくれても良いんじゃない?」


「何のこと?」


「あたしを雇うだなんて、他に理由があるに決まってる。」


「へぇ、疑り深いね。
まぁ、強いて言うなら湿っぽくて嫌になるから、かな。」


「は?」


「こっちの話だ。」


「意味わかんない。」


どこまで行っても相葉サンは、腹の底を人には見せないらしい。


何を考えているのかわからないのはクロ以上で、そんなあたし達を乗せ、車は走り出した。


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