向日葵
乗り慣れない高級外車はエアサスが無駄にフワフワとしていて、思わず車酔いしてしまいそうになる。


これと言って大した会話をすることもなく、気付けば街の中心部から少し離れた場所まで来ていた。


クラブ街が近く、午前中のこの時間は人の通りも少なくて、閑散としている印象を持ったのだが。



「すぐそこだから。」


そう言って駐車場へと車を止めた相葉サンは、あたしを無視してそれから降りた。


自己中すぎて嫌になるのだが、仕方なくあたしも車から降り、足を進めるその後ろへと続く。


アスファルトを照り返す陽は暑すぎて、こうやっているだけでも汗が滲んでしまう。


そのままビルの地下の階段を降りる背中に続けば、“ここだよ”と、そんな台詞と共に扉が開けられた。



「…何、ここ。」


「ショットバーだよ。」


決して広くない店内は薄暗く、確かにカウンターやビリヤード台、それにダーツボードも見受けられるのだが。


あれほど手広く事業をしている人が、何でまた、こんなシケたお店に手を出そうと思ったのか。



「まだ全部は揃ってないけど、商品の搬入が終わり次第、オープンするつもりなんだ。」


「で、ここでバイトしろって?」


「そう、どうかな?」


どうかな、と言われても困ってしまうのだが。


この人が何を考えているのかわからない以上、イエスもノーも言えるわけがない。



「実は、店長になるヤツがあんまり乗り気じゃなくてね。
困ってるんだ。」


「…店長?」


「キミみたいな子がタイプらしいから。
だから、夏希チャンがバイトしてくれると、俺としても助かるんだよ。」


「は?」


思わず眉を寄せたあたしに、“もうすぐ来るよ”と彼は、そんな台詞。


大体の腹の底は見えたけど、そんな理由であたしを使わないで欲しいと、そう思う。



「悪いけど、断るから。」


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