向日葵
怖いとか、怖くないとか、そんなこと頭の片隅にもなかったんだ。


全部捨ててみたら、そこにはクロしか居なくなって、涙の味がしょっぱくて仕方がない。


クロの香りがして、鼓動が重なって、溶け合うように求めあえば、どうにもならないくらいに埋められなかった場所が満ちていくのを感じた。


離れていた余白を埋めるように紡ぎ合い、言葉さえも持たないままに口付けを交わす。


指先を絡め合い、舌先があたしをなぞるように這えば、壊れてしまいそうだったものの形がまた、形成されていくんだ。


愛しくて、愛しくて、愛しくて。


これが誕生日プレゼントだとするならば、最高だと思った。









「…生きてる?」


「殺そうと思ったの?」


「いや、そうじゃねぇけど。」


使い古したようなソファーに腰を降ろし、片膝を立てて煙草の煙をくゆらせるクロの反対の膝の上に頭を乗せて寝転がれば、彼は白灰色を吐き出しながらそう、あたしに問うてきた。


何だか未だにあまり実感がなくて、虚ろな瞳で見上げてみれば、クロの指はあたしの髪の毛を梳かすように滑るばかり。



「折角会えたんだし、死なれちゃ困る。」


だったらもう少し、考えてヤって欲しいとは思うんだけど。


適度なエアコンの風は狭い店をまんべんなく包み、まるで猫のように、このままクロの膝の上で眠ってしまいそうになる。



「このまま眠ったら、また夢になるの?」


「もう飽きたよ、お前の夢も。」


「あたしもだよ。」


何だ、あたしのことばっかり考えてたのか、って。


そう思って口元だけを緩めると、彼は困ったように白灰色を吐き出しながら、苦笑いを浮かべていた。



「俺、お前居ないとダメらしいよ?」


< 248 / 259 >

この作品をシェア

pagetop