向日葵
「へぇ、そう。」


「…それだけかよ。」


「他に何て言って欲しい?」


「傍に居て、とか?」


「言わなくてもわかってんでしょ?」


そう瞳を投げ返せば、クロは“そうだな”と、そんな風に言って煙草を消した。


愛の言葉なんてあたし達には照れくさ過ぎて上手く使いこなせないけど、でも、会ってみればそんなもの、大して重要なんかじゃないんだと気付かされた。



「それより真面目な話、これからどうする?
つか、お前ホントにここで働くの?」


「…あたし、相葉サン苦手。」


「まぁ、そうだろうな。
でもヨシくんも、昔はあんなんじゃなかったってゆーか。」


「そうなの?」


「そう。
由美姉って言ってさ、ヨシくんの彼女だったんだけど。
その人死んじゃってから、仕事に生きてるってゆーか、他人に壁作るようになったんだ。」


「……え?」


「サチのこと可愛がってんのも、元々はサチが由美姉を目標にしてたから。
だから、由美姉と似てるサチを俺に取られたのも許せなかったっつーか?
時には冷酷にならなきゃいけない仕事だし、あんな風にしか言えない人だけど、別に悪い人じゃないんだよ、ホントは。」


人は誰しも、何かしらを背負っているのだと、おばあちゃんが言っていた。


そして、それでも生きることに意味があるのだと、と。


難しすぎてよくわかんなかったけど、でも、相葉サンもきっと、そのうちのひとりなのだろう。



「ホントのこと言うと、転がってた俺のこと拾うって言い出したのも、由美姉なんだよ。
育ててもらった恩もあるし、由美姉のためにも、俺はヨシくんのこと支えていきたいの。」


義理とかそんなのを通り越して、クロは相葉サンのことが好きなのだろう。


これが彼の生きてきた道で、人に優しくあることが強さなんだと言っていたおばあちゃんの言葉を思い出した。


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