向日葵
「あたし、帰る。」


「へぇ、バイバイ。」


眉を寄せて立ち上がったのに、この男は意外にも、引き留める様子すらないように手をヒラヒラとさせるだけで。


やっぱり悔しくなってきびすを返し、急ぎ居酒屋を後にした。


夜風に吹かれてみれば、先ほどの熱気は容易く持ち去られ、少しの肌寒さに襲われた。


とにかくあたしは、振り回されっ放しだ。


あの時あたしがアイツの携帯なんか拾わなければ、こんなことにならなかったんだと思うと、やっぱり人生なんて自業自得なんだろう。


悪いことしたわけじゃないのにと、そう思うとまた思い出したように頭の中に幼少の頃の記憶がフラッシュバックされ、唇を噛み締めるようにしてそれを振り払った。


とにかくもう、アイツとは関わらないようにしなければ、と。


そう思って見上げた月はおぼろげで、陰りがちなそれは、やっぱり物悲しげにしか見えなかった。








陽平のアパートまで戻ってきたところで、電気がついていることにひどく安堵感を覚えた。


あたしの居場所は、陽平と暮らすこの場所しかない。


他の居場所なんていらないし、一番似合ってるのもこのここなのだ。


体は重く、頭も割れそうに痛くて、少し早くなった心臓を落ち着けるようにあたしは、階段を登った。


ガチャリとドアを開け、“ただいま”と告げれば、いつものようにソファーに寝転がった顔がこちらに向けられて。



「おっつー。」


そんな馬鹿みたいな台詞に、笑いさえも込み上げてくる。


利害関係だけで繋がってる陽平と居るのが、一番居心地が良い。



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