向日葵
「パパ、お小遣いちょうだい♪」


そう、笑顔で言ってみたあたしに彼は、あからさまに口元を引き攣らせた。


引き攣らせて、そして小さく眉を寄せる顔に、思わず堪えていた笑いを噴き出しそうになってしまうのだけれど。



「夏希チャンが言うと、ホントにみんなから勘違いされそうだね。」


「困るんだ?」


「迷惑だ。」


そんな言葉にあたしは、お腹を抱えてしまった。


彼、相葉サンを“パパ”と呼ぶようになったのは、最近のこと。


もちろんそんな関係じゃないし、クロがそう言ってたから、ってだけなんだけど。


パパは何気にあたし達の心配をしてくれるし、これで結構悪い人じゃないんだとわかったから、こうやってたまにいじったりもする。



「やめとけ、夏希。
パパが怒ったら、俺の給料が引かれちゃうじゃん。」


そう、クロも横から茶化したりなんかして。


二人はまだオープン前だと言うのにボトルを開け、しかも昼間からそれで乾杯しているのだから、本当に趣味のようなお店なのだろう。


ひとりで掃除してるあたしは、何だかやる気が失せてしまうのだが。


ついでに言えば、バックルームとして使ってる奥の部屋には、クロがあのマンションで使っていた家具が置かれ、軽く生活も出来るようになっている。



「俺は、お前らみたいな手に負えないガキの父親なんかじゃないからね。」


ふてぶてしくもそう言った相葉サンは、“帰るよ”と、そんな台詞と共に立ち上がった。


来週はこの店のオープンも控えてるし、何気に月末だから忙しいのだろうけど、でも、あたし達の心配をしてこの店に立ち寄ってくれたのも知っている。



「ホントは嬉しいんだよ、あの人。」


パタンと閉まった扉に向け、クロはそう、口元を緩めた。


料理上手で優しいおばあちゃんが居て、しっかり者のママが居て、そしてちょっと照れ屋で怒りっぽいパパが居るあたし達に、血の繋がりなんてものはあまり意味を持たないんだと知った。


ちなみに智也は、面倒見の良いお兄ちゃん、って感じ。


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