向日葵
オレンジの間接照明が部屋を淡く照らし出し、幾分静かになったその場所で、クロは煙草を咥えて立ち上がった。


そしてビリヤード台に向かい、手早くラックに球を並べ入れ、キューを手に取って目を細めた。


運転してる時の横顔と、ビリヤードしてる時のクロの顔は、結構格好良くて好きだったりもして、あたしは少し離れた場所からいつも、それを眺めているのだ。



「趣味は、お酒と洗車とビリヤード?」


「そうかも。」


少しの嫌味を混ぜてそんな風に言ってはみたものの、咥え煙草の彼はキューのタップにチョークを擦る。


ちなみに、ビリヤード中の咥え煙草は禁止されているのだけれど。



「昔、ビリヤード出来る人って格好良いよね、なんて言ってる可愛い子が居て。
その子を口説くために始めたんだけど、なかなかハマっちゃってさ。」


「へぇ、そう。」


「怒るなよ。」


「怒ってないよ。
さぞモテたんだろうな、って思っただけ。」


「…やっぱ怒ってんじゃん。」


フッと口元を緩める顔はいつものことで、たまにクロは、こんな風に言ってあたしの反応を楽しむことがある。


ムスッとすると、構えた彼は白球を放ち、カシャーンとそれが小気味良い音を鳴らし、数個のボールがポケットに吸い込まれた。



「お前もやれば?
俺が教えてやるから。」


「…え~…」


「人生、趣味のひとつでもあった方が、華やぐってものじゃない?」


「…クロは華やいでるの?」


「俺にはお前が居るからそれで良いんだって。」


背中を向けたままに投げられた言葉が少しばかり恥ずかしくて、横目でこちらを捕らえた彼はまた、口元を上げた。


クロが言うと、本当にそうなんじゃないかと思えてくるから不思議なんだけど。


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