向日葵
コクリとだけ頷くと、彼はあたしを引き寄せるように肩を抱いた。


抱いて、そしてひとつキスを落とし、離れた唇と、そして真っ直ぐに向けられた視線に、どうすることも出来ずにあたしは、顔を逸らしてしまう。



「俺らがして欲しかったこと、全部してやろうよ。
嫌だったことは、しなきゃ良い。」


「…簡単に言うね。」


「簡単なことだよ。」


「それじゃ究極に甘やかしちゃうことになるよ?」


「良いよ、女の子だから。」


勝手に決めないでよと、そう思ったのだけれど、それでも泣いてしまいそうであたしは、何も言えなかった。


波音が耳に響き、寄せては返すそれの中で、“俺が居るから”と、そんなクロの言葉が溶けていく。



「てか、付き合って。」


「…今更?」


「いや、言ってなかったし。」


そんなグダグダな告白なんだかプロポーズなんだかにあたしは、どうしようもないなと思いながら口元だけを緩めた。


泣くつもりなんてなかったのに、気付けば視界はぼやけていて、顔を隠すようにクロの胸にそれをうずめてしまうことしか出来ないのだけれど。



「俺、子供の名前決めてんだ。」


「…早いよ。」


「光輝。
光り輝く、って書いてミツキ。」


“もちろん、男でも女でも”と、そうクロは付け加えた。



「知ってる?
向日葵の花言葉なんだ。」


「…向日葵?」


「他にも、敬慕とか、私はあなただけを見つめる、とか?」


やっぱり何を言っているのかわからなくて、顔を上げたあたしに彼は、小さな笑みだけを落とした。


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