向日葵
「…てかあたし、何やってんだろ。」


一通り怒りが通り過ぎてみれば、冷静になった頭で自分自身に突っ込みさえ入れてしまう。


あたしの携帯なんて、相変わらず着信さえも告げてくれないし、ついでにこの場所に立っていたって、誰からも声を掛けてもらえそうにないわけで。


向かいのビルへと吸い込まれるような人波を見つめながら、本日もう何度目かのため息を吐き出した。







「あー!
俺の携帯発見!!」


春の陽気に眠気を誘われそうになった刹那、辺り一体に響き渡った声にあたしは、ビクッと肩を上げてしまう。


何事かと思って顔を上げてみれば、こちらを指差した男が、人波を掻き分けるようにして近づいて来るわけで。



「いやぁ、サンキュウでした。」


驚いたままに目を見開くあたしの前に立った彼は、そう営業スマイルのような顔で言ってのける。


コイツがこの黒い携帯の持ち主なのかと、そう思いながらに立ち尽くしていると、容易くあたしの手の中のそれは、持ち主の元へと戻るように奪われて。



「じゃあね!」


「待て!」


そのままきびすを返した男に、瞬間、あたしは何かを考えるより早くに声を上げていて。


全くわかっていないのだろう男は、不思議そうな顔で足を止め、そしてこちらへと顔を戻したのだが、あたしはと言うと、もはや怒りは抑えられないレベルにまで達している。



「…まだ何か?」


「アンタねぇ。
普通、拾ってくれた人間に対して、その態度ってないんじゃない?」


そう言ってはみたものの、未だ向かい合う彼はあたしの言葉の意味が分かっていない様子で、何言ってんだとばかりに眉を寄せられて。



「だーかーらぁ!
普通、大事な携帯拾ってもらったんだし、サンキュウとかで終わらせるのっておかしいでしょ、って言ってんの!」



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