向日葵

夢見心地

ポツリ、ポツリと闇空から雨粒が落ちてきて、地面の色を染めていく。


だけども重い荷物を持ち続けていたために体は悲鳴を上げていて、もう走る気力さえも残されてはいないまま。


第一、そんなものがあったとしても、財布の中身はすでに三千円を切っていて、暖を取ることも出来ないのだから。


台風が近づいていることは知っていたけど、でも、どうすることも出来なくて、店の軒先で身を縮めた。


バッグには水滴が弾き、身じろぐように足を一歩引けば、背中にはコンクリートの壁の冷たさを感じてしまう始末。


実家を出てから、三日目の夜だったと記憶している。







『ずっと雨宿りしてんの?』


一体どれくらいの時間が経過していたのだろう、弾かれたように顔を上げてみれば、傘を差した男がひとり。


警戒して小さく睨むあたしに、だけども彼は、眉のひとつも動かさないまま。



『通り雨じゃないんだし、止むまで待ってたら朝になっちゃうぜ?』


『…関係なくない?』


いつの間にか風は強くなり始め、男の持つ傘を雨粒が、容赦もなく打ち鳴らす。


もはや雨宿りの意味はほどんどなくて、濡れた体を重たく感じた。



『その荷物からして、お前、家出でもしてきたの?』


『だったら何?』


『俺んち、住んでも良いけど?』


その言葉に目を見開けば、何故か男はククッと笑っていた。


恐る恐る立ち上がってみれば、“一緒に来いよ”なんて言葉に背中を押されるようにして、あたしは一歩を踏み出したのだ。



あの日、絶望のどん底に居て、おまけにお金も行く場所もなかったあたしを拾ってくれたのは、陽平だった。


未だに何で着いていったのかわかんないけど、でも、間違いなくあたしは、陽平に救われたのだ。


それだけは、変わらない事実。



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