向日葵
陽平の家の近くで車を降りると、もうすぐ日付が変わろうとする時間だと気付き、さすがに驚いたけど。


通りは先ほどの海と同じくらいに静かで、“ホントにここで良いの?”と、そうクロは問うてくる。


それにコクリと頷けば、視線がぶつかり、彼はそれを落とすようにしてフッと口元を緩めた。



「夏希?」


刹那、あたしの名前を呼んだのは向かい合う彼ではなく、その声は背中から聞こえたもの。


聞き慣れたそれに恐る恐る顔を向けた瞬間、戸惑うようにあたしは、目を見開いた。



「つか、何やってんの?
それ以前に、男と一緒ってどういうこと?」


「…陽、平…」


煙草の煙をくゆらせながら陽平が、眉を寄せてこちらへと歩み寄ってくる。


多分すぐそこのコンビニで買い物をしたのだろう、彼の手にはコーラのペットボトル一本が入った袋が握られているのだが。


チラッとクロへと視線だけを動かそうとした刹那、バチンと乾いた音が響いた。


ひどく頬に違和感を覚え、恐る恐るそこを押さえると、熱を持ちながら痛みが走り、殴られたのだと頭で理解したのだが。



「…何、で…」


「黙れよ。
お前、誰に拾ってもらったか考えろ。」


吐き捨て陽平は、苛立ちをぶつけるように煙草を投げ捨てた。


小さく恐怖心が渦をなし、何も言えなくなって唇を噛み締めれば、“なぁ”と聞こえてきたのは背中から。



「つか、女殴んなよ。」


「あ?
お前、何?」


「お前こそ、いきなり出てきて何だよ。」


眉を寄せたのはクロで、“関係ねぇだろ”と陽平は、そんな顔を睨み付けて。


全ての出来事が、音を立てて崩れていく。


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