向日葵
瞬間、ゴトッとミネラルウォーターのペットボトルが、あたしの手から抜けるように滑り落ちた。


だって陽平が言ってることが、あまりにも理解出来ないのだから。



「…それ、って…」


それって、ドラッグじゃん。


MDMAは、“タマ”や“エクスタシー”などと呼ばれ、見た目の可愛さから、若者を中心に乱用されているもの。


だから最近の陽平はおかしかったのかと、そんな風に思えば、全ての辻褄が合ってくる。



「…何で、そんなの陽平が…」


「あぁ、言ってなかった?
俺、こういうの売ってる人なの。」


「―――ッ!」


ひどく眩暈を覚えて視線を泳がせれば、ラリった瞳はあたしを捕らえたまま。


寝ないのも、食べないのも、全てはタマの所為。


感情に任せて怒り狂うのも、一度寝たら起きないのも、全部全部タマの所為だったのかと、今更気付いても、後の祭り。


おまけに陽平の場合、どう見ても喰い慣れているらしい。


ヒタッと響いた足音に弾かれたように顔を上げてみれば、ニヤリと口元を緩めた顔が、目前に迫って。



「ヤろうぜ。」


「やめっ!」


瞬間、その手を無意識のうちに払い除けると、舌打ちを混じらせた陽平に殴られた。


その反動で体は冷蔵庫に叩きつけられ、震えながらに視線を上げた瞬間、昂ぶるモノを口の中へと突っ込まれてしまう。


嫌悪感の中で吐き気がし、涙を混じらせながらあたしは、小さく首を横に振ることしか出来なくて。


その瞬間、また殴られた。



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