向日葵
そうだ、そんな一言でこの生活は始まったんだった。


今更誰とヤろうが何も変わりはしないと思っていたし、この場所を追い出されれば、あたしは他に行くところもないのだから。



最初の頃の陽平はそれなりに優しかったし、たまにお金をくれたりもした。


神様なんていないんだと、ずっとそんな風に思っていたけれど、それでもあの頃のあたしには、陽平は救いの神のように見えたんだ。


互いを干渉し合わないってことだけを決めたが、“彼氏は作るなよ”と、その部分だけは強く言われていたっけ。


それでも仕事がなくて、あたしは陽平に隠れて体を売るようになったんだ。


最初の頃は、あたし達はずっとこんな風にして上手くやれるのだと、何の根拠もないけどそんな風に思っていたのに。


なのに、一体どこから狂ったと言うのか。


狂っていたと言うならば、きっと最初からだったに違いない。


だって陽平は、あたしと会うよりずっと前から、“ビタミン剤”を飲み続けていたのだから。






手放していた意識を手繰り寄せると、いつの間にかあたしは、ベッドに運ばれていて、横では陽平が寝息を立てている。


窓の外は白み始め、夜明けの訪れだと思った。


ひとつため息を落とし、逃げるなら陽平が眠っている今しかないのだと、そう思って静かにベッドから抜け出てあたしは、リビングへと足音を忍ばせる。


その辺に脱ぎ散らかしている彼のズボンを発見し、そのポケットを探れば、出てきたのは真っ赤な携帯。


あたしのものだ。


散らばった自らの服をかき集め、急いでそれを纏い、バッグに携帯を投げ入れ、家を出た。



「…バイバイ、陽平。」


そう呟いて閉めた扉は、背中越しにパタンと静かに音が消えた。


行く場所なんてないけど、だけどももう、陽平とだけは一緒に居られないから。


< 68 / 259 >

この作品をシェア

pagetop