向日葵
世界は朝モヤの色に染まっていて、ツンとした空気が肌を刺す。


まだ夜が明けたばかりで、通りにはほとんど人の姿はないが、アザだらけのこんな顔を誰かに見られたらと思うと、無意識のうちに顔を俯かせてしまう。


トボトボと歩きながら数日ぶりに携帯の電源を入れると、智也から数件のメールが来ていた。


“連絡ちょうだい”とか、総じてそんな内容だけれど、さてどうしたものかと思ってしまう。


きっと智也は、クロから何か聞いているはずだ。


ならばもう、連絡なんてしない方が良いのではないか。



♪~♪~♪

刹那、鳴り響いたのはあたしの手に持つそれの着信音で、ディスプレイにははっきりとした文字で、“クロ”と表示されていた。


瞬間に鼓動が早くなるが、辺りをつんざくような電子音は鳴り止むことはなく、明らかに不快そうな瞳のサラリーマンがこちらをチラリと伺う始末。


急いで顔を背けたその瞬間、携帯に指先が当たり、ピッと聞こえた電子音と共に、容易くそれは通話状態に変わった。



『…夏希?』


恐る恐る携帯を耳へと持ち上げると、あたしの名前を呼ぶ声色はいつも以上に優しく聞こえ、意志とは別に涙が溢れそうになる。


唇を噛み締めると、言葉を発することは叶わず、だけども何を言って良いのかさえもわからないまま。



『とりあえずお前、無事なの?』


「……うん…」


それだけ返せば、電話口の向こうからは安堵したようなため息が吐き出され、あたしはと言うと、苦しくなるばかり。


“ごめん”と、そんな簡単な言葉しか言えなくて、少しばかり震えてる自分が情けなかった。



『なぁ、会えない?』


「…無理、だよ…」


無理だよ。


こんな姿なんか、見せられるはずがないんだから。


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