向日葵
「夏希!」


弾かれたように顔を上げた刹那、車から降りてきたクロはあたしの元へと駆け寄って来て、思わず視線を落としてしまう。


だけども彼は、そんなあたしを強い力で抱き締めて。



「すっげぇ心配したから。」


その腕は少しばかり震えているようにも感じ、やっぱりあたしは“ごめん”としか言えなかったけど。


だけども何故か、とても安心している自分が居た。


道行く人々の視線は痛いけど、でも、そんなことさえ気にしていられないほどに、キュッとあたしは、クロの服の裾を掴んでしまう。



「とりあえず、車乗って。」


コクリと頷くと、クロはあたしの手を引いた。


そのまま一緒に車へと乗り込み、それが人波の通りを抜けるように走り出すと、陽平のアパートからどんどん遠ざかっていく様に、少しばかり安堵してしまう。



「ねぇ、これから仕事なんじゃないの?」


「良いよ、別に。」


チラリとだけクロの方へと視線を向けたのだが、彼がこちらに顔を向けることはなくて、その横顔は、幾分険しさが混じっているように見えるのだが。


これからのことなんて本当は何も考えてはおらず、そんなことに少しばかり不安になりながらあたしは、再び窓の外へと視線を投げた。



「どこ向かってんの?」


「俺んち。」


それだけ言ったクロは、煙草を咥えた。


朝日は昇りきり、幾分眩しく感じて目を細めると、“寝る?”と問われた言葉にあたしは、小さく首を横に振った。


景色はいつの間にやら知らない場所で、一年半もこの街で過ごしているのにも拘らず、あたしは巡回通り以外どこも知らないんだなと、今更ながらにそんなことを思ってしまった。


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