向日葵
到着したのは見るからに高級なマンションで、思わず目を見張ってしまったわけだけど。


レンガ造りの洒落た外観で、“こっち”と言ってクロに中へと連れて行かれながら、ひどく自分がみすぼらしいなと、そう思わずにはいられなかった。


6階の一室の前で立ち止まり、ガチャリと扉が開けられると、外観通りと言った感じだろう、中もやっぱり広くて、居心地の悪さは拭えないまま。


玄関で立ち尽くすあたしに彼は、“入れよ”と、そんな一言だけ。



「ねぇ、怒ってる?」


「そう見える?」


問い返されると、どうしたものかと思ってしまうのだが。


ため息を混じらせたクロは、ソファーにドカッと腰を降ろし、また煙草を咥えてしまう始末。


仕方なく部屋の中へと足を踏み入れると、綺麗なものの、あまり生活感は感じられない印象で、陽平の部屋とはまるで違うなと、そんなことを思ってしまう。


窓際まで来たところで足を止め、下の道路を眺めると、人の小ささに、何故だかここが別世界のように感じてしまって。



「見晴らし、最高だと思わない?」


振り返ると、いつの間にやら背後に立っていたクロは、そう言って口元だけを緩めた。


嫌になるくらいに静かで、少し眩しく感じた朝の陽に、目を細めた。



「ありがと、助けてくれて。」


「…うん。」


「でも、何かもう、疲れちゃった。」


そう小さく肩をすくめると、泣きそうになっている自分に気がついた。


生きることは辛いばかりで、どうしてこうもあたしの人生は、上手くいかないことだらけなのだろうかと、そう思わずにはいられなくて。


ため息を零すと、緩みっぱなしの涙腺から、もう枯れたと思っていた涙がまた溢れ出した。


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