向日葵
そろそろクロが帰ってくる時間だな、と思い、冷蔵庫の中を探ってみると、少ないながらも一応材料は入っていて、これなら何か出来るなと、そんなことを思って調理を開始した。


非常用のために少しばかり覚えた知識が、皮肉にもこんな時に役に立ったかと、そう思うと笑うことしか出来ないのだけれど。


まぁ、あたしに出来ることなんてこれくらいしかないわけで。


一通り作り終えた頃合を見計らったように、ガチャリと扉が開き、顔を向けてみると、“ただいま”なんて言ったクロの姿。



「つか、良い匂い。」


「うん、カレーだけど。」


「へぇ、意外。」


「…は?」


「いや、料理出来るとか思ってなかったし。」


「失礼じゃない?」


「じゃあ、他にも何か出来るんだ?」


「…シチュー?」


「いやそれ、作り方一緒じゃん。」


そんな言葉にあからさまに頬を膨らませて不貞腐れるあたしを見て、クロはケラケラと笑っていた。


内心ムカつくものの、言い返すことも出来ず、口を尖らせたままにあたしは、鍋の中身をかき混ぜた。



「智也、来たっしょ?」


「来たね。」


「何か言ってた?」


「何も。」


アナタのことをお薦めされました、とは言えなくて、それだけ返すあたしに、彼はそれ以上聞いてくることはない。


だけどもそんなあたしの背中越しに、何だか楽しそうにクスクスと笑う声ばかりが響き、そのままクロは、冷蔵庫を開けてビールを取り出した。


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