向日葵
突然すぎて頭は上手く働いてはくれず、キョトンとしたままあたしは、固まってしまった。


だけどもその意味を理解すると、途端に心臓が早くなり、顔が赤くるのだから。



「俺、風呂行ってくる。」


そんなあたしを見てフッと笑った彼は、そう言ってさっさと背を向けてしまって。


今のは告白なんだよねと、それさえも疑問に感じるほどで、まるであたしの答えなんて求めてないようにも見えて。


長く吐息を吐き出しながら、どうしたものかと思ってしまう。






♪~♪~♪

考えを巡らせていると、突然に鳴り響いたのはあたしの携帯の着信音で、きっと智也だろうとそれを持ち上げた瞬間、ディスプレイに表示された名前に、目を見開いた。


見開いて、そして嘘じゃないのかと思ったのだが、確かにそこには、“陽平”の文字。


その瞬間に記憶がフラッシュバックし、それを握り締める手は震え、熱が失われるのを感じてしまって。


刹那、パサッと先ほど机の上に投げた求人情報誌がフローリングに落ち、身をすくめたその瞬間に聞こえたのは電子音で、手の中のものは簡単に通話状態へと切り替わってしまっていた。


恐る恐るそれを耳に当てると、“夏希?”とあたし名前を呼ぶ声が耳に響き、背筋には否応なしに冷たい汗が伝うのを感じて。



『つか、切らないで聞いて欲しい。』


そう、改まった口調はまるで陽平らしくなくて、終話ボタンに親指を乗せた状態で、あたしの指先は動かなくなった。


だけども吐息は震え、電話口の向こうからも拭いきれない緊張が伝わる中で、言葉を持たないあたしに向け、彼は言う。



『勝手な話なのはわかってるけど、戻って来て欲しい。』


「…何、を…」


『俺、仕事辞めたし、もうタマも喰ってねぇんだ。』


そんな言葉が聞かれ、あたしは混乱するように視線を動かした。


今更信じられるはずもないのに、それでも、心のどこかで陽平を信じたいという気持ちも残っていて。


< 86 / 259 >

この作品をシェア

pagetop