向日葵
涙を拭う暇はなくて、携帯を握り締めたままのあたしに、不審そうに眉を寄せた顔が向けられた。


だけども何も言えなくて、ただ首を横に振ることしか出来ず、無意識のうちにあたしは、顔を俯かせてしまう。



「…ごめん…」


それだけ言って立ち上がると、掴まれたのはあたしの腕で、それを上へと辿っていくと、怒りに満ちた瞳が落とされていて。


“どこ行く気?”と、少し低い声色で、クロはあたしにそう問うてきた。



「…だって、陽平がっ…」


「え?」


「陽平が戻って来てって言ってるんだもん!」


「…何、言ってんの…?」


目を見開いたクロの瞳は、戸惑いの色だけを浮かべていた。


この言葉が、クロに対する裏切りだとわかっていても、でも、陽平を助けられるのはあたししかいない。


あの人のことを分かってあげられるのは、世界中であたししかいないのだから。



「っざけんなよ!」


刹那、初めてあたしの前で声を荒げたクロは、掴んだ手首を離さないままに、あたしを壁へと押し当てて。


唇を噛み締めた彼は、震えることしか出来ないあたしに、視線を落とした。



「戻ったら、また繰り返すだけだろ?!」


「…でも陽平は、あたしのためにタマだってやめたし…」


「そんなの信じるなよ!
自分が何されたのか、忘れたわけじゃねぇだろ?!」


「―――ッ!」


まるで吐き出すように言われた台詞に、ひどく胸が苦しくなった。


きっとクロがこんな風に言うのは当然で、間違ってるのはあたしだとわかってても、それでもあの時助けてくれた陽平を見捨てることは出来なくて。


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