【完】名のないレター
そう言いながら、首を傾げていた。
俺は心の中でずっと真奈を呼んだ。
それに気づかない真奈は、不思議そうに俺を見つめていた。
「なんでもない。行こう。朝礼遅れるぞ」
俺はいつもより笑顔で真奈に言った。
「…そうだね」
真奈が言うと、俺たちはぎこちなく手を繋いだ。
「…なんか変な感じだね」
真奈は俺を見て、照れくさそうに真っ赤な顔で小声で言った。
「…ん? 今なんて言った? 聞こえなかった」
ほんとは、聞こえているけど。
もう一回真奈の言葉で聞きたかった。
この状況が、夢じゃないと。
「なんでもない。ただ、那月と手繋ぐのって、小学生の頃以来だなって。こんな関係になるなんて思わなかったから。こんなこと言わせないでよ」
プイッと両頬を膨らめせて、下に俯きながら、俺に言ってきた。
かわいい。
これは、夢じゃないだな。
「……そうだな。俺も真奈とこんなふうになるなんて夢のようだよ」
俺は、ニヤつきそうになる顔を左手で隠した。
その時だった。
キーンコーンカンコーン
学校の鐘が鳴ったのだ。
朝礼が始まる時間だ。
「うわあ、ヤバい。真奈、行くぞ!」
「あ、うん」
俺たちは、真奈の教室まで手を繋いだ。
バイバイと俺は真奈に手を振って、教室に戻ろうとした。
その時、真奈が大きい声で発した。
「那月! ありがとうね」
満面な笑みで真奈は嬉しそうに俺に向けて、手を振ってから自分の教室へ戻っていた。
人は言葉にしなくちゃ分からない。
言葉にしてわかることがあるんだと思えた。
伝えなくて、後悔しないように俺の正直な気持ちを伝えていきたい。