【完】名のないレター

その時、那月の右手に触れた。私は、何か分からないけど。私の頭の中で、一瞬茶髪の男の子が見えた。

「……」

 那月からもらったサイダーを両手で握りしめて、私は那月の前で固まってしまった。

「…真奈? どうした」

 那月は、私の顔を見て心配そうに下から私を見つめてきた。

私は那月の言葉でようやく現実へと引き戻された。

 那月まで心配かけてんのよ、どうすんの私。

「あ、うん。大丈夫。なんか昔のこと思い出した」

 私は苦笑いを浮かべて、那月に心配を掛けないように溌剌な声で言った。

「……そっか。ならいいんだ。じゃあ、俺戻るわ」
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