騎士団長のお気に召すまま
「__ミア様」


澄んだアメリアの声は、優雅な音楽と談笑の声で満ちた会場の中でもミアに届く。

その声が聞こえた瞬間、笑っていたミアはその顔を歪めた。そしてまっすぐ見つめるアメリアを見つめて憎むように睨みつける。


「あなた、どうして」


その声はわずかに震えていた。

泥まみれになりここにいられないはずのアメリアが美しいドレスに着替え、さらに伯爵家のシアンとヘンディーを引き連れているということに驚きを隠せないらしい。


「随分と、うちの団員に手を出してくれたようですね、ミア」


アメリアの後ろにいたシアンがゆっくりとミアの前に姿を現す。


「いい度胸です」


穏やかな声、表情のはずなのに、怖くてたまらない。

その優しい顔の奥からまるでどす黒い怒りの塊が漏れ出しているようだった。

その怒りは温度が低く、その空気に触れただけで凍り付いてしまいそうなほどだった。


「シアン様、い、一体、何を…」


ミアは辛うじて笑顔を保っているが、その笑顔が引きつっていることをアメリアは見抜いていた。

取り巻きの令嬢達はシアンの怒りに震えあがって青ざめ、ひとり、またひとりとこの場を抜け出す。


「この僕に誤魔化しは効きませんよ」

「ヒッ!」


辛うじて保っていたミアの笑顔も完全に崩れ去った。

それはシアンも作っていた笑顔をやめて素の表情を見せたからだった。


「僕を怒らせるなんて、あなたは愚かですね」


鼻で笑うシアンにミアは完全に戸惑っていた。


「え、あの、シアン様、ご、ご様子が…」


「ああ、ミアは知りませんか、僕の本当の顔。

いつも穏やかな人物を装っていましたが、あれは嘘です。まやかしなんですよ。

本当の僕は、こっち。

幻滅しましたか?」


目を細めて憂うように笑う。

それはどこか物悲しそうで、けれど決して近づけない。近づけさせない。そんな雰囲気がする。
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