騎士団長のお気に召すまま
「彼女のことも、ただの子爵家令嬢だと思いましたか?

騎士団などで働く、ただの風変わりな娘だと思いましたか?」


ミアの美しい茜色の髪の毛を手に取って、シアンは呟くように問う。問うといっても、ミアの答えは求めていないのだが。


「彼女は、確かに力のない子爵家のご令嬢です。しかし我がアクレイド家と繋がりの深い家でもある。

兄上も気にかけるほどに」


兄上、それはつまりアクレイド伯爵だ。

それを重々分かっているミアはその言葉に目を見開いた。


「あ、アクレイド伯爵が?」

「ええ。それに彼女のドレス、用意してくださったのは兄上です。あなたとアメリア嬢の一部始終を目撃したそうですよ」


目を見開いていたミアは青ざめた。

自分がやってしまったことの大きさが、今になってようやく分かったのだ。


「ミア、あなたはアクレイド家を敵に回した。あなたとの関係もここまでです」


温度のない声で淡々と告げられる事実はあまりにも残酷だ。

突き付けられる現実にミアは震えていた。

踵を返そうとするシアンをミアは必死に呼び止める。


「お、お待ちくださいシアン様!」

「まだ、何か?」

「関係も、ここまでって、婚約の件は? アクレイド伯爵から勧められていますわよね?」


縋るような懇願に近い問いかけを、シアンは鼻で笑う。とても残酷な人だとアメリアは思った。

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