騎士団長のお気に召すまま
「話、ですかな?」
「ええ」
相変わらずの優しい微笑みで、彼はこう言ってのけた。
アメリア・ミルフォードとの婚約関係を解消したい、と。
それを言われたミルフォード子爵は目を見開いて絶句した。
アメリアは父親ほど驚きはしなかったが、それでもミルフォード家を守る唯一の手段が無くなってしまったことに焦った。
そしてシアンを見つめるが、彼の表情は先ほどまでと何の変わりもない。
取り留めもないような世間話をしているときのような穏やかな表情だ。
ひとつの子爵家が生き残る最後の術を自ら潰したのだとは微塵も思っていないようだ。
冷酷無慈悲。青藍の騎士である彼には人情も慈悲もないらしかった。
「お、お待ちください、シアン殿」
気を持ち直したらしいミルフォード子爵は額に浮かぶ汗を拭きながらシアンに訴えた。
「どうしてなのです、こんな時になって、そのようなことなど!」
「なぜ、と仰られても」
シアンは紅茶を啜りながら、少し鼻で笑って答えた。
「許嫁って親同士が勝手に決めたものですよね。それに婚約当時と現在とでは状況も異なりますし、この関係を解消したいと思っています」
「そんな!」
縋るようにミルフォード子爵は言葉を投げるが、切り捨てるようにシアンは紅茶のカップを机の上に置いた。
そして穏やかなだけど鋭さのある声色で言ったのだ。
「先代の頃より縁のあるミルフォード子爵のお噂は、かねがね聞いております」
「ええ」
相変わらずの優しい微笑みで、彼はこう言ってのけた。
アメリア・ミルフォードとの婚約関係を解消したい、と。
それを言われたミルフォード子爵は目を見開いて絶句した。
アメリアは父親ほど驚きはしなかったが、それでもミルフォード家を守る唯一の手段が無くなってしまったことに焦った。
そしてシアンを見つめるが、彼の表情は先ほどまでと何の変わりもない。
取り留めもないような世間話をしているときのような穏やかな表情だ。
ひとつの子爵家が生き残る最後の術を自ら潰したのだとは微塵も思っていないようだ。
冷酷無慈悲。青藍の騎士である彼には人情も慈悲もないらしかった。
「お、お待ちください、シアン殿」
気を持ち直したらしいミルフォード子爵は額に浮かぶ汗を拭きながらシアンに訴えた。
「どうしてなのです、こんな時になって、そのようなことなど!」
「なぜ、と仰られても」
シアンは紅茶を啜りながら、少し鼻で笑って答えた。
「許嫁って親同士が勝手に決めたものですよね。それに婚約当時と現在とでは状況も異なりますし、この関係を解消したいと思っています」
「そんな!」
縋るようにミルフォード子爵は言葉を投げるが、切り捨てるようにシアンは紅茶のカップを机の上に置いた。
そして穏やかなだけど鋭さのある声色で言ったのだ。
「先代の頃より縁のあるミルフォード子爵のお噂は、かねがね聞いております」