騎士団長のお気に召すまま
それを受け取ったアメリアは「ありがとうございます」と感謝を述べた。


「まあ、これを使う機会がない方がよいのですが。それよりも早く平民の服に着替えてきてください。見送りくらいはしましょう」

「はい!」


笑顔のアメリアと対照的に、シアンはまたひとつ溜息をこぼした。

平民の服に着替えたアメリアはすぐに騎士団の出入り口へと向かう。そこにはシアンやレオナルドの他に数名の団員がいた。


「見送りどうも、団長」


レオナルドはいつもの調子で明るく笑うが、シアンは厳しい表情を変えはしなかった。


「第一優先は確証の高い情報です。戦闘は最小限で」


そこまで言うとアメリアに目を向けた。


「無理はしないでください。何かあればすぐに僕も向かいます」


「はい」


団員は声を合わせて元気よく返事をした。

副団長の馬の後ろに乗ったアメリアは再びマリル港に向かう。

しばらく馬を走らせると、潮の香が鼻をくすぐった。

この匂いはアメリアを見たことのない世界に連れて行く、胸の高鳴る香りだ。

けれど今のアメリアにはそんな輝かしい胸の高鳴りはなかった。

ただあるのは、緊張感と責任感。

それから、シアンの役に立ちたいという気持ち。

夜会の時に助けてくれたシアンに、恩返しがしたかった。

少しでも、力になりたい。

使命感にも似たそんな感情がアメリアを突き動かす。


「ありがとうございます、副団長」

馬を走らせるレオナルドにアメリアはそう言った。

レオナルドは驚いたのか、少しだけ間をあけてなんてことないような口調で白を切る。

「何が?」

「私がマリル港に調査に出ると言ったときに、助けてくださったことです」
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