騎士団長のお気に召すまま
その言葉で子爵は押し黙ってしまった。

シアンがこのミルフォード家の現状を知っているのだと分かってしまったからだ。


「我が兄…アクレイド伯爵もミルフォード家の現状について存じ上げており、今現在、私は別のご令嬢との婚約を勧められております。

私個人の意見はともかくとして、我が当主からの言いつけには逆らえません」


それは最後通告だった。

今シアンが口にしたのはアクレイド伯爵の言葉であり、ミルフォード子爵家との婚約は微塵も考えていないということだ。

ミルフォード子爵家を守る唯一の頼みの綱はあっけなく途切れてしまった。


ミルフォード子爵は呆然としていた。

シアンとの婚約が望めなければ、このミルフォード子爵家は終わる。それを誰よりもいちばん分かっているのはミルフォード子爵本人だった。

そんな父親を見たアメリアはこのまま引き下がる訳にはいかないと拳を握りしめた。



「待ってください!」



突然大声を上げたアメリアに、ミルフォード子爵も、シアンも、シアンの付き人も、この場にいた者全員目を丸くした。


「シアン様は、ミルフォード子爵家との婚約は考えておられないのですか?」


アメリアの問いに、シアンは呆れたような笑みを浮かべて目を細めた。


「そう、先ほども述べたのですが」

「でも、どなたとも婚約はしていらっしゃらないんですよね?」

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