騎士団長のお気に召すまま
シアンはじっとアメリアの目を見つめて「…何が仰りたいのです」と問うた。

刺のない言葉なのに、鋭い氷みたいだとアメリアは思った。

穏やかなのに隠れて敵意があるような、少しばかり低くなったシアンの声にぴりりと緊張が走る。

アメリアは緊張で心臓をばくばくと鼓動させながら拳を握って奮い立たせる。



「…一度だけでいいんです。機会をくれませんか」


「機会?」


冷たいシアンの瞳を見つめ返してアメリアは頷いた。


「シアン様と私は許嫁同士でした。互いに忙しく会えない時が多く互いをよく知らないままでしたが、それでも私はいつかシアン様と結婚することを目標に日々を過ごして参りました。

それなのに突然、婚約破棄を言い渡されましても、だからってすぐに『はい、そうですか』とはなりませんわ」


本来なら子爵令嬢であるアメリアが伯爵家のシアンに強く出ることは立場上有り得ないことだ。

しかし一族の存続の危機がかかった今、なりふり構ってはいられない。


「ミルフォード家の現状をご存知なのでしょう。このまま婚約破棄となればこのミルフォード家は確実に没落します。

ミルフォード子爵家とアクレイド伯爵家は、前当主のときから交友関係がある旧知の仲です。


どうかそれに免じて機会を頂けませんか」


アメリアは頭を下げた。それを見ていたアメリアの父も頭を下げる。

シアンは溜め息を吐き出した。
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