騎士団長のお気に召すまま
「シアン、様、どうして…」


願っていた人物がそこにいる。

シアンだけでなく、数人の団員もいるらしく、すぐにアメリアのそばに来てくれた。

シアンはアメリアを見ると眉間に皺を寄せた。それからエディとフォルストの役人を鋭い眼光で睨みつける。


「誰ですか」


その声は決して大きくなくとも、鋭い殺意が込められている。


「誰ですか、うちの団員に手を出したのは」


腰に下げていた剣を鞘から抜いて、切っ先を向ける。

エディもフォルストの役人も、騎士団員もその恐ろしさに目を見開いて固まった。


「おや、そこにいるのはエディですか。お久しぶりですね。騎士団をやめてから何をしているのだろうとは思っていましたよ。

まあ、フォルストの諜報員になっているとは思いませんでしたが」


「団、長」


「僕はもうあなたの団長ではないですよ。

あなたは僕の大切なものに手を出した。

ただの敵です。許しません」


震えあがるエディの隣で、フォルストの役人は腰に下げていた剣を抜いてシアンに向ける。

シアンは今怒り狂っている。このままでは切られかねないと判断したのだろう。


「おや、そちらの方は戦うつもりですか?」

「…いえ、できるのなら戦いたくはありません」


役人は冷や汗をかきながらもシアンと対峙していた。


「あなたは高名な青藍の騎士。その強さはフォルストでも有名ですから」

「そんな強い騎士が長である騎士団の者に手を出した理由はなんです? 僕はそれを聞いているんですよ」


シアンは剣を振り下ろした。


アメリアは気付いていた。シアンはいつもの冷静さを失っている。

怒り狂ったその瞳には目の前にいる敵しか映していない。

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