騎士団長のお気に召すまま
エディの名前を聞いてシアンの頭にはその顔がはっきり浮かんでいた。彼には今日は正門の守衛を任せていたはずだ、と思いながらその理由を尋ねる。


「あのアメリア嬢に失礼な態度をとった。アメリア嬢の話を聞こうともせず、あろうことか追い払おうとした」


それを聞いたシアンはふっと先ほどまでのアメリアの様子を思い出す。

エディは一般市民だ。生まれも育ちも正確なことは分からないが、爵位を持っているわけではない。

そんな地位の低い人間に仮にも貴族のご令嬢が無礼な態度を取られたのなら、怒り狂ってもおかしくはない。


しかしアメリアはそんな様子は一つも見せなかった。おくびにも出さなかったのだ。



「…なるほど、ただの貴族令嬢ってわけではないのですね」



『臨むところですわ』

先日啖呵を切るように宣言したアメリアの様子を思い出す。



「確かに、面白い人材かもしれません」



シアンの口元がわずかに緩んだ。






ジルから仕事について教えてもらったアメリアは絶句していた。

最初に案内された騎士団で働く女性達が寝泊まりする場所、これからのアメリアの寝床となるその場所を見たからだった。


「どうだ、いいところだろ?」


一方でジルはこれだけ好待遇な働き口が他にあるだろうかと言わんばかりに興奮気味だ。

その様子を横目でみながら、アメリアはその部屋をもう一度見渡す。


決して広くはない部屋に二段に重なったおんぼろな寝台が二つ。布団は雑然と朝まで使用されていたままの状態で皺がよっている。窓から光がさしているものの、おかげでどれだけ埃が舞っているのかがすぐに分かる。

とても清潔とは言い難い。没落寸前とはいえ、まだ実家の方が清潔だろう。

一応は貴族の娘として生活していたアメリアにとって信じられない状況であることには、やはり何度見ても変わりない。

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