騎士団長のお気に召すまま
呆然と部屋を見渡すアメリアを見て、何を不満なことがあるのだろうかと不思議に思いながらジルは言う。


「あたしらの仕事は、騎士団員様が生活するこの騎士団の基地を清潔に保つこと」


それは掃除から洗濯、皿洗いに至るまで、「清潔に保つ」ことの全てを受け持つということだ。任された仕事は実に幅が広かった。


「あんたの他にも同じ仕事をしているやつが何人もいるんだけどね。まあ、団長の命令であたしがあんたの教育係になったんだ、一人前になるまで面倒はみてやるよ」


姉語肌のジルは腕を腰に当てて溜息を吐く。アメリアは慌てて「ありがとうございます」と頭を下げた。


「似合ってるよ、それ」


それ、というのは騎士団で働く女性の制服のことだった。

ジルにとっては誉め言葉のつもりだった言葉も、アメリアには辛辣な言葉にさえ感じられる。

それもそのはず、アメリアが今着ているその制服は、未空色の長い裾のワンピースに白いエプロンという、まるで女給のような恰好なのだ。

一応は貴族の出である自分がまさか女給のような恰好をして働く日がくるなんて。そうは思ったけれど、しかしこれしか自分が生き残る道はないのだとすぐに思い直した。

ジルは腰に手を当てると「さあて」と言ってそばに置いていた掃除道具を持ち上げる。


「おしゃべりはここまで。さっさとやっちまわないと、日が暮れちまう」


アメリアも慌てて掃除道具を持ち、ジルに教えてもらいながら懸命に掃除をした。

本当はこんなことをしている場合ではなく、少しでもシアンに良いところを見せねばならないのだが、仕事を任された以上は責任を持たねばならない。

慣れないことに怒鳴られてばかりだったが、それでも食らいつこうとアメリアは歯を食いしばった。

そうしてようやく昼休憩になったのは、陽が少し傾いた午後2時のことだった。

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