騎士団長のお気に召すまま
「そんなに睨みつけて、貴女は僕が嫌いですか」


資料から顔を上げなくてもアメリアの視線に気付いたらすいシアンのその問いに、アメリアは溜め息を吐いた。なんてことを聞くのかと、呆れさえした。


「これまでのやり取りの中で、一体どこにあなたを好きになる要素があると言うのです」


きっぱりとしたアメリアの答えに、シアンは「正直ですね」と鼻で笑った。


「これから結婚する気にさせないといけない相手に、あろうことか"嫌い"だと言いますか。これは斬新ですね」

「嘘は吐かない主義ですので」

「それは結構」


「では、せいぜい頑張って」とシアンは資料を机に投げるとアメリアに近づいてその腕を掴むと引き寄せた。

その腕の強さと顔の近さに、アメリアは目を見開く。

急に視界いっぱいに移るシアンが、妖艶に目を細めて口の端を僅かに上げる。




「僕を落としてみてくださいね」



熱っぽい声と吐息のかかる距離があまりに艶めかしくて、アメリアはこれ以上耐えられなくなって突き放した。

よろけて数歩下がり睨みつけるアメリアを、シアンは目を細めて意地悪く笑う。

目を見開いたままのアメリアの心臓はひどく大きな音で鼓動していた。

そんなアメリアにシアンは言うのだ。


「それはさておき、喉が渇きました。紅茶をお願いします。茶葉はエメで」


先ほどまでの意地悪で妖艶な微笑みはどこへやら、いつもと同じように騎士団長は命令を下した。


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