騎士団長のお気に召すまま
団長室の隣には簡単な料理を作れるような部屋があった。そこに紅茶の茶葉もあるということだった。

こんなに腹立たしい人に紅茶なんて、とアメリアは苛立ちながらエメの缶を手に取る。

紅茶缶の蓋を開けるとすぐにふうわりと漂うエメの香りは、まだアメリアが実家で暮らしていた頃を思い出させた。

こんなにも貴族らしい物が騎士団という高貴さからは縁遠い場所にあるなど思いもしなかったアメリアは少し驚いたが、エメの香りは癒される。

ふう、と深呼吸をしたアメリアだったが、しかし一つ困ったことがあった。

アメリアは紅茶を淹れたことがないのだ。

紅茶は侍女など使用人が淹れるもの。いくら貧乏貴族とはいえ、ミルフォード家でも執事であるロイドが淹れていた。

その姿を横目で見たことしかなかったアメリアは、必死にロイドの姿を思い出しながら湯を沸かした。


「お待たせしました」


やがて何とか淹れた紅茶を持って団長室に運ぶ。

また資料に目を通していたらしいシアンは「ありがとうございます」と言ってティーカップを受け取るが、一口啜った途端、眉間に皺を寄せた。


「何です、これは」

「え、紅茶ですが?」


それを聞いたシアンはティーカップを机に置くと「これは紅茶ではありません」と言い放った。


「どうしてこんなに苦いのですか。薬よりずっと苦い。とても飲めたものではありません。嫌がらせですか」


なんて言い方をするんだ、とアメリアは腹が立った。

せっかく淹れたものを、こんなに言うなんて。それなら自分で淹れたらいいのに、とさえ思う。

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