騎士団長のお気に召すまま
「そんなに酷く仰らないでくださいよ、私は今まで紅茶を淹れたことがなかったのです!シアン様もそれはご存知でしょう?」

紅茶を淹れるのは使用人の仕事。それは貴族であるシアンも知っているはずのことで、「ああ、そうでしたね」と威圧的に返事をした。


「僕としたことが忘れていました。

貴女は紅茶すら満足に淹れられない貴族の娘。貴女ほどここで働くに適さない人物はいない」

「なっ!」


アメリアは反論しようとしたが、シアンは気にすることなくまた資料に目を通して「紅茶、淹れ直してください」と言ったのだ。

アメリアは腹が立ったが、ここではシアンが絶対。腹が立ちながらティーカップを盆に載せるアメリアに、シアンはまるで独り言のように言った。


「…こんなに苦いということは、おそらく蒸らす時間が長すぎたのでしょう。茶葉の量も多かった可能性があります」


それはまるでアメリアに対する助言のようで、アメリアは思わずそう尋ねてしまった。

しかしシアンは「何を勘違いしているのです」と冷たい目を向ける。


「これ以上、茶葉を無駄にされたら困りますから」


優しいお方かもしれないと、少しでも考えた自分が馬鹿だったとアメリアは痛烈に感じた。

目の前にいるのは、アクレイド家の"堅物"。合理的を望む男。気遣いや優しさなど、求めるだけ無駄だ。


「失礼いたします」


アメリアはわざとらしく溜め息を吐き出すと踵を返した。

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