騎士団長のお気に召すまま
そのためシアンは兄が家督を継ぐと決まったときから将来を見据えて騎士学校に入学した。

騎士として騎士団に入団すれば、己の実力で騎士団長の地位にまで這い上がることも可能である。

産まれに寄らずに実力さえあれば出世することができる、家督を継がない子息らにとってはほとんど唯一残された立身出世の道なのだ。


その上、昔はどうであれ今では爵位も異なる。


会いたいから会いたいなどと簡単に言えるお方ではないのだ。


このようにシアンの忙しさと身分の差もあって、全く会わないまま時が流れてしまったのである。


歯を見せて笑う幼いシアンの顔も、今はもうぼんやりとしてはっきりと思いだせない。


「お嬢様にそのようなご事情があったなど存じ上げませんでした。それはさぞ寂しく思われていたことでしょう」


眉間に皺を寄せてまるで自分のことのように切なそうな顔をするロイドに、アメリアはふっと笑って「あなたがそんな顔をする必要はないわ」と言った。


「寂しいなんて憂いている場合ではないの。考えてもみて、今は彼との繋がりだけが好機なのよ」


「好機?」


全く分からない様子で首を傾げるロイドに、アメリアは悪戯っぽく笑って人差し指を立てた。


「今のミルフォード家を建て直すには、私がどこかの高貴な方と婚姻関係を結ぶ他ないわ。けれど没落寸前の貴族など繋がりを持とうと思う者はいない。

けれど許嫁であるシアンなら、幼い頃の約束を守ってくれるかもしれないでしょう?」


むしろ、救いの糸はこの他にはないだろう。

幼少期以降一度も会ったことのない許嫁など当てにはならないが、この縁に縋るしかない。

シアンと婚姻関係を結べなければ、確実にミルフォード家は没落する。
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