騎士団長のお気に召すまま
男は焦った様子を見せるが、それに引き換えシアンは微塵も焦りを見せなかった。冷静そのものだ。


「分かりました、捨てましょう」


そう言って持っていた武器をその場に捨てる。

剣は騎士の象徴。それをこうも簡単に手放してしまうなんて、とアメリアが思ったのも束の間だった。

シアンは男とアメリアの視界から突然消えた。


「な、どこ行った!?」


シアンは武器を捨てるとすぐに男とアメリアの後ろに回り込んだのだった。

アメリアにはそれが見えていたが、冷静さを失っていた男はシアンの動きを見切ることができなかったようで、突然視界から消えたシアンを必死に探し出そうとしている。


「ここですよ」


そう声をかけるとすぐに男の背中を殴った。

突然のことに驚く男はアメリアを開放すると二、三歩よろけて倒れこむ。

そのすきにアメリアは男のそばから離れ、シアンは捨てた剣を手に取った。


「卑怯な…!」

「卑怯? 娘をこんな路地裏に連れ込むあなた方のほうがよほど卑怯に思えますが」


男はシアンを睨むが、シアンは冷静に男を見下して剣先を男に向ける。


「観光客を装って娘を路地裏に連れ込み、他国に送る。あなた方は誘拐の常習犯ですね」


男は目を見開いた。

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