騎士団長のお気に召すまま
いつもは無表情か苛立ちの表情を浮かべているシアンが、少しばかり安心したような表情をしていた。


「貴女が無事で、良かった」


アメリアは信じられない気持ちだった。

まさかあのシアンが、自分を助けてくれた上にこんなことを言ってくれるとは微塵も思っていなかったのだ。


「シアン、それは…」


何か言おうとするアメリアよりも先に、「さて、行きますよ」とシアンは話を切り替える。


「貴女が迷子になって事件を起こしてくれたおかげで、仕事が中断してしまいました」

「す、すみません…」

「しっかりしてください」

シアンは小言を言いながら天幕街の方へと歩いていく。

その後ろ姿に呼びかけた。


「シアン、助けてくださってありがとうございました」


シアンは足を止めて振り返る。それから少し考えて、頭を下げているアメリアにひとつ提案をした。


「手をつなぎませんか」


その言葉にアメリアは目を見開いた。驚きのあまり声さえも出てこない。

そんなアメリアの様子を知ってか知らずか、シアンはその理由を説明しだした。


「身をもって知ったことでしょうが、マリル港には大勢の人がいて、その中には危険な人もいます。これ以上、貴女が迷子になって事件に巻き込まれては困るのです」


そう言って差し出された手を、アメリアは握った。

きっとこれはシアンの優しさだろう。そう思うと嬉しくてたまらなかった。

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