騎士団長のお気に召すまま
「そんな大層なものじゃないわい。儂はただ世間話をしているだけじゃ」


「ほっほっほ」と楽しげに笑う店主は、シアンとアメリアが手を繋いでいるのを見つけてニヤリと微笑んだ。


「団長さん、今日は仕事ではなくてデートかのう?」


店主は軽い冗談のつもりだったが、シアンはそれを語尾を強めて完全否定する。


「そんなわけがありません。仕事です、仕事。見回りですよ。

ただ彼女はすぐ迷子になるので仕方なしに手を繋いでいるだけです。誤解なされませんよう」


そのあまりにも堅物な反応がシアンらしいとアメリアは半ば呆れていた。

店主は「そうかい、そうかい」と返事をしたが、どうやらシアンの言葉をあまり本気にしていないようだった。


「それより、何か新しい情報はありますか?」


すると店主は表情を変えた。


「ああ、それがのう、ちいっと面白い話があってのう」

「面白い話?」

「詳しい情報はまだないんじゃが、そうやらフォルストが大変な状況らしくてのう。他国と揉めているそうじゃ」

「フォルストが?」


フォルスト国は我が国の同盟国で、王様同士がとても仲が良く、親交のある国のひとつである。


「すまんのう、これくらいしか分からんのじゃ」


申し訳なさそうな顔をする店主にシアンは首を横に振る。


「また詳しいこと分かれば、よろしくお願いします」

「ああ、もちろんじゃ」


それからシアンは本を一冊選ぶと代金を支払った。


「まいどあり」


店主はアメリアにも手を振って見送った。
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