騎士団長のお気に召すまま
「その言い方、私に喧嘩を売っているのですか?」

「まさか」


シアンは素っ気なく否定するが、アメリアには信じられなかった。

けれど確かにシアンも共に出席してくれるというのは助かることでもあった。

アメリアとしても、今シアンのほかに婚約関係を結んでくれそうな子息がいないというこの時に、シアンがほかの令嬢と婚約を結ぶようなことはあってはならない。

それでは両親に、ミルフォード家の者達に合わせる顔がない。

ミアからこの関係を守らなければならない。

そこまで思い至って、ひとつ思い出したことがあった。


「そういえば、ミアどのではないのですか? シアン様がアクレイド伯爵から婚約を勧められているというのは」

「そうですよ。だから厄介なのではないですか」


シアンは眉間に皺を寄せて心底嫌そうな顔をする。


「兄の手前、ぞんざいに扱うこともできません。でもミアとの婚約だけはしたくない。できる限り関わりたくない。これほど扱いにくい相手はなかなかいませんよ」


青藍の騎士と呼ばれる冷徹なシアンをここまで言わしめるとは。さすが伯爵令嬢、と思っていると、「そうです」とシアンは何かを思いついたようだった。


「おそらくミアは貴女の置かれている状況のすべてを知っているはずです。当然、貴女が騎士団で働いていることも、団長室の担当であることも知っている。

となれば、貴女が夜会で不相応の対応をすれば、その評判は騎士団へと跳ね返っていく。それは騎士団への不名誉になってしまいます。それではいけない」


シアンによって紡がれていく言葉はあまりにもアメリアに失礼なものばかりだ。

そう伝えれば、「当然のことを言ったまでです」と言われた。まったくもって失礼な人物だとアメリアは思った。
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