騎士団長のお気に召すまま
「貴女に特別任務を命じます」


シアンはアメリアを指さしながらそう告げた。


「騎士団の名誉を守るため、貴女には一から夜会のマナーを学んでもらいます」


なんとも腹立たしい言い方だが、アメリアはありがたいとも思った。

夜会など幼い頃に一、二回出席した程度で、ほとんど忘れてしまっている。今のまま夜会に出席すれば、確実に恥をかくだろうと思っていたのだ。


「では今日の夜から騎士団ではなく、屋敷で寝泊まりしてください」

「屋敷?」

「僕の屋敷です」

アメリアは目を見開いた。シアンの屋敷、というのはつまりアクレイド伯爵家ということだろうか。

となればアメリアは伯爵にお会いしなければならなくなる。それは考えるだけでも胃が痛くなるほど緊張することだ。

そんなことを考えているアメリアに、シアンは「勘違いしないでくださいね」と溜息を吐いた。


「僕の屋敷、というのは兄であるアクレイド伯爵の屋敷とは別です。

家主は僕です。優秀なメイドがいますから、彼女から学んでください。夜会は日曜日ですから、数日しかありません。騎士団での仕事は一時中断して、そちらに注力してください」


屋敷へは用意した馬車で向かうようにという指示も出た。

夕方になり今日の仕事を終えて、シアンに言われた通り荷物をまとめて正門に向かうと、そこには一台の馬車があった。

おそらくこの馬車がそうなのだろう。

馬車に近づくと中から男性が下りてきて、アメリアを見つけると頭を下げた。


「アメリア様でいらっしゃいますか」

「え、ええ」

「シアン様より屋敷へご案内するように申し付けられております。馬車へどうぞ」

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