騎士団長のお気に召すまま
つい先ほど話していた人物に、アメリアは驚きを隠せない。


「シアンが?なぜ…」

「アメリア!あのお方を呼び捨てにするなど恐れ多い!シアン様とお呼びしなさい!」


ミルフォード子爵は慌てて大声で叫んだ。

お会いしていた十数年前は「シアン」と気軽に呼んでいたのに。そう思うと今の身分の差を見せつけられているようで心苦しい。


「とにかく今日の午後にはおいでになる!急いで支度をしておくように!」


ミルフォード子爵はそれだけ言うと部屋を出て行った。

ばたんと部屋の扉が閉まっても、アメリアはただ呆然としていた。


「お嬢様?いかがなさいました?」


ロイドが心配そうにアメリアに近づいて呼びかける。


「シアンと、お会いする…」


アメリアの記憶の中のシアンは5歳のころの幼い姿のままだ。

おぼろげにしか覚えていない彼と今から突然会うなど、一体どんな顔をして会えばよいのか、アメリアには分からなかった。

アメリアは悶々としていたが、屋敷の使用人であるロイドとばあやは慌てふためきながら忙しそうに準備を進める。

ミルフォード子爵家は貴族とは言いながらもほとんど力をもたない貴族だ。そしてその力がどんどん衰えていたこともあり、ロイドやばあやの表情もどこか暗く沈んでいた。

しかし今は忙しそうではあるが久々に二人が明るい顔をして働いている。

その姿はとても輝いていて、悶々としているアメリアに少し微笑みが戻った。


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